光合成過程は様々な調節を受けている.ある機能の活性が上昇する,またはある遺伝子の発現が増えるような調節をアップレギュレーション,逆に低下するような調節をダウンレギュレーションと呼ぶ.調節の機構や調節に要する時間は様々であり,短期的な応答から馴化までを表現する一般的な用語である.植物が吸収する光エネルギーが過剰となる場合に起こる光化学系ⅡのΔpHによる効率低下制御はダウンレギュレーションの一例である.これは,チラコイド膜のΔpHの形成に伴って,光化学系Ⅱの色素ベッドにおける過剰エネルギーの熱散逸(non-radiative dissipation, NRD)によって反応中心への光エネルギーの伝達が抑制されるために起こる. NRDは, ΔpHの誘導とゼアキサンチンとアンテラキサンチンの形成に伴って起こる迅速な応答である.光化学系Ⅱのダウンレギュレーションが頻繁に起こるような強光下で植物を栽培すると,キサントフィルサイクルに関与するカロテノイドのプールサイズが大きくなり,ゼアキサンチンとアンテラキサンチンの形成に関わるデエポキシダーゼ活性が上昇するような馴化がみられる.また植物の長期的な高CO2応答においても光合成のダウンレギュレーションがみられるがこの原因については定説が定まっていない.