光合成色素により吸収された光エネルギーは励起状態のエネルギーとしていったん蓄えられ,光合成反応中心における電荷分離反応に利用されるが,過剰なエネルギーは光または熱エネルギーに変換され散逸される.このメカニズムは光合成系を保護するためにきわめて重要である. (1)*励起一重項(Sn)状態からは,蛍光や内部転換とそれに引き続く振動緩和を利用して基底一重項(S0)状態に遷移し,さらに振動緩和により完全にエネルギーを散逸する道筋がある.エネルギーは前者では光エネルギーとして,後者では振動エネルギーを介して熱エネルギーとして散逸される. (2)高い*三重項(Tn)状態からの内部転換と振動緩和,または最低一重項(S1)状態からの項間交差*により最低三重項(T1)状態に到達し,そこからS0状態への項間交差とそれに引き続く振動緩和を行う道筋もある.ここでも振動緩和を介した熱エネルギーの放出がある.(3)アンテナ色素-タンパク質複合体中のカロテノイドとクロロフィルおよびクロロフィル分子どうしが接触した色素集合系では,一重項分裂反応と,一重項-一重項,一重項-三重項,三重項-三重項アニヒレーションなどの励起子アニヒレーション反応も励起エネルギーの散逸に重要な役割を果たす.そのメカニズムを上図に示す(A, Bは異種の色素分子でも同種の色素分子でもよい).ここでも最終的には(1), (2)と同様のエネルギー散逸過程を伴う.