psbA

 psbA 光化学系Ⅱ反応中心であるD1タンパク質をコードする遺伝子で,植物と藻類の色素体ゲノムおよびシアノバクテリアゲノムに存在する.1978年にBedbrookらによって,光照射後のトウモロコシ芽生えから抽出した葉緑体RNA画分を使った実験で,psbA遺伝子の存在が初めて明らかにされた.トウモロコシ葉緑体DNAのBamHI-8断片にハイブリダイズする光誘導mRNAが,ウサギ網状赤血球無細胞系で34.5 kDa のポリペプチド(32kDaタンパク質の前駆体)を合成したことから,当初photoregulatory P32 gene と命名された. 1982年にP32遺伝子(psbA)の全塩基配列がホウレンソウで最初に決定された.
 タバコのpsbAは,85 bp の5'-非翻訳領域(UTR),1,062 bp のタンパク質コード領域,91~95 bp の3'-UTRから成り, 353アミノ酸のD1タンパク質をコードしている.塩基配列から推定されるD1タンパク質のアミノ酸配列は,タバコとホウレンソウで完全に同一である.植物とクラミドモナスの間で93%, ミドリムシとは87%,シアノバクテリアとは88%のアミノ酸が同一で,葉緑体遺伝子のなかで最もよく保存されている.植物のpsbA遺伝子は,葉緑体ゲノム中に1コピー存在する.psbAの上流にtrnH遺伝子が,下流にはtrnK遺伝子がそれぞれ隣接する.これに対して,藻類の場合,psbAに隣接する遺伝子は藻類によって異なる.珪藻Odontella sinensisでは,rpl34-ycf46-ycf44-psbAの順に並んでいるが,ユーグレナでは,psbD-psbC-trnL(UAA)-psbAとなっている.クラミドモナスとクロレラでは,隣接する遺伝子がなく,psbA遺伝子は単独で存在する.ユーグレナとクラミドモナスのpsbA遺伝子は4個のイントロンでタンパク質コード領域が分断されている.陸上植物とクロレラ,紅藻のpsbAにはイントロンは存在しない.
 植物のpsbAは自身のプロモーターをもち,モノシストロニックmRNAとして単独で転写される.転写開始点のすぐ上流に,大腸菌遺伝子プロモーターの-10領域に似た塩基配列(TATACTG)と-35配列(TTGACA)が存在する.psbAのプロモーター活性が高いことから,葉緑体ゲノムに外来遺伝子を導入して発現させるためのプロモーターとしてpsbAが利用されている.psbA mRNAは,他の光合成遺伝子のmRNA量よりも多く,安定に葉緑体内のストロマに蓄積している.
 光合成を活発に行っている葉緑体の中では, D1タンパク質の代謝回転が著しく速いことが知られている.これはD1タンパク質の蓄積量が主にpsbA mRNAの翻訳段階で制御されているためである.タバコの葉緑体形質転換実験と無傷葉緑体の抽出液から調製した無細胞翻訳系を用いた実験で,psbA mRNA の5'-UTRの中に翻訳開始のためのシス配列が存在することが明らかにされた.クラミドモナスでは, 5'-UTRに結合する翻訳開始のトランス因子が同定されている.一方,psbA mRNAの3'-UTRには安定なステムループ構造があり,これがmRNAの安定化因子として働いている.

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:46:21