*S状態モデル[S-state mode1] [#pacf55b6]
#author("2021-10-20T12:53:25+09:00","default:edit2015","edit2015")
*S状態モデル[S-state model] [#pacf55b6]
  最初に提唱した研究者にちなんでコックモデル,あるいはオキシジェンクロックモデルとも呼ばれる. [[Joliot>ジョリオ]] (1969年)と[[Kok>コック]] (1970年)は,長時間暗黒下においた葉緑体を閃光で照射すると,1発目と2発目の閃光では酸素発生がほとんどみられず,3発目の閃光で最大の酸素発生が起こり,以後4閃光ごとに酸素発生量のピークがみられることを観察した(→酸素発生の4周期振動の図).この[[酸素発生の4周期振動]]は,S&subsc(0);からS&subsc(4);までの酸化状態の異なる比較的安定な中間状態を経る,4段階の1電子酸化反応により酸素発生反応が進行することを示している(下図).光化学系Ⅱ反応中心でP680が1回光励起されるごとにS&subsc(0);からS&subsc(4);まで1段階ずつ反応が進行し,S&subsc(4);からS&subsc(0);状態へ戻るときに酸素が遊離される.連続光下では,2分子の水から4電子と4個のプロトンが引き抜かれ1分子の酸素が生成されるサイクルが繰り返される.O&subsc(2);/H&subsc(2);OのpH6での標準酸化還元電位は+870mVであり,一方この4つのS状態遷移過程の標準酸化還元電位の平均は+890mVと見積もられている.このことは水分解系が水酸化反応のエネルギーを下げる特別な触媒作用をもつことを意味している.&br; S&subsc(0);→S&subsc(1);, S&subsc(1);→S&subsc(2);, S&subsc(2);→S&subsc(3);,S&subsc(3);→S&subsc(0);の遷移過程は,それぞれ30, 110, 350, 1300ミクロ秒程度の時定数(t1/2)で進行する.S&subsc(0);→S&subsc(1);, S&subsc(1);→S&subsc(2);, S&subsc(2);→S&subsc(3);における活性化エネルギーは,それぞれ1.2, 2.9,8.6 kcal mol&supsc(-1); とまったく異なる値を示す.光照射後,暗中では高いS状態から低いS状態への遷移が起こるが,この過程を不活化(deactivation)といい,S&subsc(3);→S&subsc(2);とS&subsc(2);→S&subsc(1);の半減期は,それぞれ0.5と2秒程度である.S&subsc(0);とS&subsc(1);との間の平衡は非常に遅い.長期間暗所に置くと,S&subsc(0);はY&subsc(D);チロシンラジカルによりS&subsc(1);に酸化される.&br; これらの中間体の構造や特性は, EPR, X線吸収(XAFS),核磁気共鳴(NMR),フーリエ変換赤外吸収(FTIR)や紫外吸収などの分光学的方法によって解明されてきている.S&subsc(1);における4個のマンガン原子の酸化状態は,X線吸収のK吸収端やESRの解析より, (Ⅲ, Ⅲ, Ⅳ, Ⅳ)あるいは(Ⅲ,Ⅲ, Ⅲ, Ⅲ)であると考えられている.そしてS&subsc(1);→S&subsc(2);→S&subsc(3);と[[マンガンクラスター]]上の酸化数は+1ずつ増していき,その正電荷を使ってS&subsc(3);→S&subsc(0);で一気に水を酸化しているようにみえる.しかし,各中間状態の酸化数についての明確な結論は得られていない.プロトン遊離に関しても,S&subsc(0);→S&subsc(1);, S&subsc(1);→S&subsc(2);, S&subsc(2);→S&subsc(3);,S&subsc(3);→S&subsc(0);の各遷移過程で1, 0, 1, 2が放出されるとされてきたが,タンパク質分解酵素のトリプシンで処理したチラコイド膜では1, 1, 1, 1のプロトン放出がみられるといったように,測定結果は光化学系Ⅱ標品の種類や外液のpHに大きく影響される.水分子からのプロトンの遊離には,[[チロシンZ]],[[マンガンクラスター]],およびその近傍アミノ酸残基が関与するとされており,その分子機構は[[プロトンアブストラクションモデル]]によって説明されている.広域X線吸収微細構造(EXAFS)解析より,マンガンクラスター中のMn間の距離は2.7Åと3.3Åであることが明らかにされている.マンガンクラスターの構造としてdi-μ-oxoブリッジによって結合したマンガン二量体の2個がさらにμ-oxo架橋で結合した構造やμ3-oxo構造をもつマンガン三量体が1つのマンガンとmono-μ-oxo架橋されている構造などが提唱されている.さらに,S状態の遷移に伴って,Mn間の距離はそれぞれ0.1から0.3Å程度変化することが報告されている.また,下図に示したサイクリックなS状態中間体のほかに,水分解系に必須なコファクターであるCa2やCI&supsc(-);が欠乏したときに生じる異常なS&subsc(2);状態や,過還元のS状態(S-1など)が存在する.(→マンガンクラスターの酸化状態)


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** 関連項目 [#if72ced0]
-[[酸素発生の4周期振動]]
-[[マンガンクラスターの酸化状態]]

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