高-CO2馴化[high-CO2 acclimation]

  化石燃料の使用や土地利用の変化により大気中のCO2濃度は上昇を続けており(工業化以前と比べると2013年までに約40%増加したとIPCC第5次評価報告書に述べられている),植物の生育・光合成に対するCO2濃度上昇の影響が調べられている.二酸化炭素固定酵素であるRubisco (ルビスコ)のCO2に対するKm値は10~15 μMで,40 Pa と平衡になっている溶液中のCO2はおよそ12 μMである.そのため,現在の大気CO2濃度下のC3植物の光合成速度はCO2飽和の半分程度であり、CO2濃度上昇に伴い光合成活性・生育は促進されると考えられる.しかし,高CO2濃度(50~100 Pa 程度の研究例が多い)で植物を長期間生育させると,短時間にみられる高CO2濃度による光合成の促進効果が認められない場合が多い.これを高-CO2馴化と呼ぶ.そのしくみは,高CO2により促進された光合成の同化産物のショ糖などの増加量が,光合成産物を消費するシンク器官による消費量を上回り,光合成を行うソースに過剰に溜まり,糖によるRubiscoなどの光合成関連の遺伝子発現の抑制が起こり,光合成能が低下すると考えられる.このほか,高CO2による若い器官の成長促進により,比較的古い器官の老化が促進され光合成能の低下が早まる場合もある.
 高CO2の植物に対する影響に多くの研究事例で違いがあるのは,ソースとシンクのバランスと,CO2を含む様々な環境要因、実験方法の違い、そして植物の成長の時期や遺伝的差異などとが関連するためと考えられる.酸素発生型の光合成生物が誕生した約27億年前頃のCO2濃度は数十kPaで,生物が陸上に進出し始めた4.5億年前頃には, 600 Pa 程度,陸上植物の活発な光合成が行われていた3億年前頃には18 Pa 程度と考えられており,植物は大きな二酸化炭素濃度の変動に直面してきた. Rubiscoは二酸化炭素が十分存在したときに誕生した.長い間,CO2濃度の低下はRubisco活性に影響しなかったが,その後のCO2濃度の低下は活性に影響を与え,C4植物のようにCO2濃縮機構をもつ植物が進化したと考えられる.

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:45:21