貯蔵脂質の生合成[biosynthesis of storage lipid]

 
 一般的な植物の貯蔵脂質であるトリアシルグリセロールは,登熟期種子細胞の小胞体膜で合成される.反応基質は,光合成組織から転流してきたショ糖を原料として細胞質ゾルの解糖系でつくられたグリセロール 3-リン酸と,プラスチドde novo合成された脂肪酸のCoA誘導体(アシルCoA)である.ただし,このアシルCoAは直接de novo合成された脂肪酸に由来するものだけでなく,小胞体でオレイン酸が不飽和化を受けて生じたリノール酸やα-リノレン酸のような多不飽和脂肪酸,鎖長延長を受けたエルシン酸のような極長鎖脂肪酸のCoA誘導体なども基質として使われる.まず,グリセロール 3-リン酸のsn-1位,ついで2位にアシルCoAからアシル基が転移する(下図).このsn-2位には,アシルトランスフェラーゼの強い基質選択性のために不飽和脂肪酸が集積する.生成したホスファチジン酸は脱リン酸化されてジアシルグリセロールとなり,最後にsn-3位にアシル化を受けてトリアシルグリセロールとなる.この一連の反応に限っていえば,最後のアシル基転移反応が律速である.また,アシルCoA非依存的にホスファチジルコリンからその脂肪酸残基がジアシルグリセロールのsn-3位に転移する反応が存在している.さらに,中間体ジアシルグリセロールはホスファチジルコリンの脱ホスホコリン反応によっても生成する.このようなリン脂質依存性の脂肪酸やジアシルグリセロールの供給経路は,多不飽和脂肪酸に富んだトリアシルグリセロールの合成に寄与している.合成されたトリアシルグリセロールは,小胞体膜のリン脂質二重層の疎水部分に集積し,一定の大きさにまで成長すると,オイルボディ(オレオソーム)として細胞質ゾルに放出される(下図).この結果,オイルボディは直径約1 μmのトリアシルグリセロールの油滴が,一層のリン脂質膜で囲まれた構造となる.そのリン脂質層には,オイルボディに特有なオレオシンと呼ばれる構造タンパク質が埋め込まれるため,種子が乾燥して細胞内の水分が少なくなっても,オイルボディどうしが融合することはない.

biosynthesis of storage lipid-1.png
biosynthesis of storage lipid-2.png

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:45:37