解糖系[glycolysis]

  グルコース,フルクトースなどの六炭糖を嫌気的に分解しピルビン酸を生じる経路.本経路を担う酵素は主に細胞質に存在するが,色素体,特にアミロプラストにも存在する.代謝の過程でATPおよびNADHを生産する.デンプンショ糖,フルクタンなど貯蔵炭水化物に由来するフルクトース6-リン酸は,フルクトース-6-リン酸キナーゼ(ホスホフルクトキナーゼ, PFK)の作用によりATPを消費してフルクトース1,6-ビスリン酸(FBP)となる(植物にはこの反応を触媒する別の酵素も存在する.ピロリン酸ホスホフルクトキナーゼで,この酵素は正逆両方の反応を触媒するが,その働きについては未解明である).さらにアルドラーゼの触媒により,相互変換が容易なグリセルアルデヒド3-リン酸(GAP)ならびにジヒドロキシアセトンリン酸に開裂される.GAPは, NAD+依存型グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ,ホスホグリセリン酸キナーゼ,ホスホグリセリン酸ムターゼ,エノラーゼ,ピルビン酸キナーゼ(PK)による一連の触媒によりピルビン酸へと変換される.1分子のFBPが2分子のピルビン酸に変換される過程で,2分子のNADHと4分子のATPが合成される.植物の解糖系は, PFKが解糖経路の中間体ホスホエノールピルビン酸により強いフィードバック阻害を受け,また無機リン酸により活性化されることにより制御されるが, FBPによるPKの活性化やフルクトース2,6-ビスリン酸によるPFKの活性化などの制御は受けない点で動物の解糖系と大きく異なる.また非リン酸化NADP+依存型グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.2.1.9)が,ホスホグリセリン酸キナーゼの触媒段階をバイパスするなど,代謝経路は他生物に比べて柔軟かつ複雑である.本経路で生じたピルビン酸はTCA回路によりATPの生成に用いられるほか,各種の炭水化物の生合成の前駆体として利用される.

イネ等の嫌気耐性を持つ植物では,嫌気下での解糖において,PPiに依存した経路があることが分かっている.嫌気条件になると,PPi依存型の解糖系酵素であるホスホフルクトキナーゼ(PFK-PPi, EC 2.7.1.90)やピルビン酸・リン酸ジキナーゼ(PPDK)が誘導される.これは,PPiのP-O-P結合が,ATPと同様に生化学反応を進めるためのエネルギーを蓄えられるため,エネルギー不足に陥るとATPの代わりにエネルギー通貨となるからである.このエネルギーは,スクロース分解,また溶質輸送やpH調節時のH+勾配を維持するためのトノプラストH+-PPiaseを介したH+ポンプの駆動に使われる.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:46:23