葉緑体の起源[chloroplast (plastid) origin]

 葉緑体の獲得機構に関しては, (1)従属栄養性真核生物による酸素発生型光合成原核生物の細胞中への取り込み, (2)それに続く共生生物の多くの遺伝子の宿主核への移行, (3)宿主核由来のタンパク質の葉緑体への輸送機構の確立,を経て葉緑体が獲得されたとするいわゆる細胞内共生説が現在では定説となっている.最初に葉緑体を獲得した真核生物に関する情報はほとんどないが,取り込まれた光合成原核生物はシアノバクテリアであると考えられている.
 シアノバクテリアが葉緑体に変換された過程を一次共生による葉緑体の獲得(あるいは単に一次共生)と呼ぶが,この過程は進化史上一度だけ起こったイベントであるとの考えが有力である.すなわち現生の植物,藻類の葉緑体は光合成色素組成や微細構造をはじめとしてグループごとに異なっているが,葉緑体の起源は単一であるとの考えである(葉緑体の単系統説).ただし,一次共生によって獲得した葉緑体を直接引き継いだ植物群は,緑色植物陸上植物紅色植物灰色植物の3群のみで,その他の藻類の葉緑体は真核の緑色植物または紅色植物のいずれかを二次的に取り込むことによって獲得した,いわゆる二次共生による葉緑体の獲得をその起源とする.二次共生による葉緑体獲得の進化的中間段階がクリプト植物クロララクニオン植物に見られる.これらの生物群では,取り込まれた真核藻類の核が葉緑体ERと葉緑体包膜の間の細胞質に痕跡的に残存している(ヌクレオモルフ).三次共生による葉緑体の獲得とは,二次共生葉緑体をもつ藻類を取り込んで葉緑体を獲得するという様式であるが,この様式で葉緑体を獲得したのは渦鞭毛植物の中のごく少数の種で,*珪藻またはハプト植物を取り込んだと考えられている.


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:46:22