植物における脂肪酸の不飽和化は,プラスチドと小胞体に存在するデサチュラーゼによって下図に示すように起こる.プラスチドでは,脂肪酸の生合成によって合成されるステアロイルアシルキャリヤータンパク質(ステアロイルACP)が,ステアロイルACPデサチュラーゼによって不飽和化されオレオイルACPが生成し,パルミトイルACPとともにプラスチド内での糖脂質とリン脂質の1種であるホスファチジルグリセロール(PG)の合成に使われる.脂質の生合成によって脂質に取り込まれた脂肪酸は,脂質に結合した状態でアシルリピドデサチュラーゼによって不飽和化される.各脂質のsn-1の位置に結合したオレイン酸は, Δ12 (ω6)とΔ15 (ω3)の位置で不飽和化を受け,リノール酸とα-リノレン酸に変換される.最も主要な糖脂質であるモノガラクトシルジアシルグリセロールのsn-2の位置に結合したパルミチン酸はΔ7, Δ10 (ω6), Δ13 (ω3)の位置で不飽和化を受けるが,他の糖脂質のsn-2の位置に結合したパルミチン酸は不飽和化を受けない.PGのsn-2の位置に結合したパルミチン酸の一部は,Δ3の位置でトランスに不飽和化を受けΔ3-trans-ヘキサデセン酸に変換される.小胞体でも脂肪酸は脂質に結合した状態で,アシルリピドデサチュラーゼによって不飽和化を受ける.リン脂質のsn-1およびsn-2の位置に結合したオレイン酸は,Δ12(ω6)およびΔ15 (ω3)の位置で不飽和化を受けてリノール酸,α-リノレン酸に変換される.リン脂質のsn-1の位置に結合したパルミチン酸は不飽和化されない.
動物における脂肪酸の不飽和化は,小胞体に存在するアシルCoAデサチュラーゼの働きによって起こり, CoAに結合した脂肪酸のΔ4, Δ5, Δ6, Δ9の位置に二重結合が導入される.脂肪酸のΔ9の位置よりもメチル基側では不飽和化されない.このため,動物はリノール酸やα-リノレン酸を必須脂肪酸として摂取しなければならない.ステアリン酸は,図のようにΔ9, Δ6の位置で不飽和化され,その後伸長反応によって炭素数が2個増加してからΔ5の位置で不飽和化を受ける.食物より摂取されたリノール酸は,Δ6の位置で不飽和化を受けてγ-リノレン酸となり,伸長された後,さらにΔ5の位置で不飽和化されてアラキドン酸となる.α-リノレン酸は,Δ6で不飽和化されてから伸長され,Δ5での不飽和化を受けてエイコサペンタエン酸となる.エイコサペンタエン酸は,さらに伸長,Δ4の位置での不飽和化をうけてドコサヘキサエン酸となる.このように不飽和化されたアシルCoAは,脂質の合成に利用される.