窒素転流[nitrogen remobilization]

  植物は個体としての移動ができないため,体内成分を有効に再利用する機能がある.特に窒素は最も不足しやすい栄養素であることから,個体全体として有効利用をしている.植物の器官には生育段階の差があり,下位葉から順次枯れていく.その際に,老化器官では,それまでに機能していたタンパク質や核酸などの含窒素生体高分子が分解され,篩管を介して若い成長中の器官に輸送されて再利用されるが,この器官間を介した窒素の輸送を,特に窒素転流と呼ぶ.イネでの研究が最も進んでおり,穂を構成している全窒素の約80%はこの転流に由来している.約50%は葉身からの転流窒素であることから,葉身の多量タンパク質であるRubiscoは, CO2の固定以外に重要な窒素源とも考えることができる.
 篩管を流れる窒素の主形態はグルタミンとアスパラギンなどのアミノ酸であることが純粋な篩管液の分析から判明している.とりわけ穂首付近の篩管液では,グルタミンとアスパラギンが主成分であり,アスパラギンはグルタミンから生合成されることから,老化器官ではグルタミンの合成が必須である.老化葉身におけるグルタミンの合成には,維管束組織の伴細胞や柔細胞に存在するサイトゾル局在型のグルタミン合成酵素(GS1)が機能していると考えられている.若い成長中の器官に転流されたグルタミンやアスパラギンは多くの生合成反応の窒素源となるが,グルタミンの再利用にはNADH依存性グルタミン酸合成酵素が重要な働きをするという結果が示されている.イネの穂は最も大きなシンク器官であり,窒素転流は生産性や品質に直接影響する重要な機構である.

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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:43:19