励起子[exciton]

  局所的電子励起が物質中を量子力学的波動として伝播しうるとき,一つの準粒子と見なして励起子と呼ぶ.励起子の光励起は物質の基礎吸収端を構成する鋭いピーク構造として観測される.物質中の局所的電子励起は,構成分子(や原子)のLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)に上がっている電子とHOMO (highest occupied mo-lecular orbital)に残された空孔から成る.それらがクーロンカで互いに引き合いながらも平均的に異なる分子上にある場合をワニエー型という.他方,それらがほぼ同一分子上にある場合をフレンケル型という.前者は無機の絶縁体や半導体において,後者は分子性固体において典型的にみられる.光合成においては後者が重要となるので,以下では後者についてのみ述べる.
 フレンケル励起子では,分子の電子励起状態が量子力学的波動として分子集合体中を伝播していると見なすことができる.2分子間における励起の移動をひき起こす相互作用の量子力学行列要素は励起エネルギー移動の項目における式(1)である.スピン*一重項と*三重項励起では,それぞれ*フェルスター型およびデクスター型励起移動の項目に示すように,行列要素が大きく異なる.通常は前者においてのみ十分大きな値をもちうるため,励起子となるのは主にスピン一重項励起である.このとき,分子間距離が分子サイズに比べて十分大きい場合には,行列要素は各々の分子における遷移双極子間の静電相互作用で近似できる.励起子が覆う分子励起状態を(量子力学におけるケットベクトル) |j>,(j=1,2,…),により表すとき,励起子状態はそれらの1次結合c1|1>+c2|2>+…により記述され,これら分子の数だけ存在する.第j番目分子の遷移双極子ベクトルをμjとするとき,この励起子状態の全遷移双極子はc1μ1+c2μ2+…であり,この和が消えないとき光励起できる.一つの励起子状態中では励起移動の概念は適当でなく,各分子上で励起が観測される|cj|2なる確率が各瞬間にあらゆる分子に存在するのみである.

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:44:16