プロトン輸送(H+輸送)[proton transport]

 生体膜における溶質の輸送やATP合成の直接のエネルギー源として,膜を隔てたH+の電気化学ポテンシャル(プロトン駆動力)が用いられる(→化学浸透説).H+輸送はプロトン-ATPase (→プロトンポンプ)によるほか,電子伝達系においては酸化還元エネルギーを利用しても行われる.シトクロムb6f複合体(ミトコンドリアや光合成細菌ではシトクロムbc1複合体),複合体Ⅰ(NADH-ユビキノンレダクターゼ),シトクロムcオキシダーゼ,光化学系Ⅱなどがその例である.
 一般に,H+輸送の機構には,ループ機構とポンプ機構がある.ループ機構では,一連の酸化還元反応によって膜の一方でH+が吸収され,反対側でH+が放出されることにより,H+輸送が起こる.ポンプ機構では,光吸収や酸化還元に伴うタンパク質の構造変化によりH+が輸送される.
 ループ機構でプロトン輸送を行うタンパク質の代表は光化学系Ⅱである.チラコイド内腔でH+を発生し(2H2O→4H+ + O2 + 4e-),外側でプラストキノンの還元にH+を消費する(PQ + 2H+ + 2e-→PQH2)ことにより,ループ機構でH+を輸送している.また,シトクロムb6f複合体(bc1複合体)によるH+輸送も, 典型的なループ機構によることが明らかになっており,Qサイクルモデルと呼ばれている.
 ポンプ機構で光依存的にプロトンを輸送するタンパク質としては,バクテリオロドプシンがある.バクテリオロドプシンはレチナール色素を結合したレチナールタンパク質で,光エネルギーを利用してH+を輸送する.これは光エネルギーにより色素が異性化し,これに伴ってタンパク質のコンホメーション変化が起こることによるもので,ポンプ機構の代表例である.その他に,シトクロムcオキシダーゼや複合体IによるH+輸送もポンプ機構によると考えられている.(→ATP合成酵素

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:45:29