ゼニゴケ[liverwort (Marchantia polymorpha L.)]

  コケ植物苔(タイ)類の1種.雌雄異株.配偶体世代(単相n,常染色体8本+X染色体またはY染色体)が優占的な生活環をもつ.1細胞からなる胞子は吸水により葉緑体を発達させ,光(光合成産物である糖が重要)により発芽し,多細胞である葉状体が発生する.葉状体は,二叉状に分枝を繰り返しながら匐伏成長する.葉状体には背腹性があり,背側にはクチクラで覆われた表皮が発達する.その直下には気室が発生し,その内部に葉緑体が発達し光合成が盛んに行われる同化糸細胞が発生する.気室は気室孔によって外気と通じている.気室の株には小さな葉緑体とデンプン粒が特徴的な柔組織が発達する.腹側には仮根が発生する.背側には杯状体と呼ばれる構造を形成し,その内部には無性芽が発生する.栄養繁殖の形態である無性芽は杯状体底部の1細胞が分裂して形成されるクローンである.
 ゼニゴケは有性生殖によっても繁殖する.長日条件かつ遠赤色光に富む条件では栄養成長相から生殖成長相へ成長相転換をし,葉状体の先端部に雄器托または雌器托と呼ばれる生殖枝を形成する.それぞれの上部には,雄器床または雌器床が分化し,造精器または造卵器が発生する.造精器で形成される精子は水によって遊走し,造卵器で形成される卵に到達すると受精することによって受精し,胞子体発生がする.胞子体世代は複相(2n)である.胞子体は,有糸分裂を繰り返した後,減数分裂によって胞子(n)を形成する.
 1973年小野莞爾によりゼニゴケ属の雌性配偶体から光独立栄養型培養細胞株が確立され,京都大学の大山莞爾らによって葉緑体ならびにミトコンドリアの全ゲノム構造の世界初の決定に利用された.葉緑体形質転換法も開発されている.
 2007年には世界初の植物性染色体としてY染色体の構造が決定された.核ゲノムの全構造もほぼ解明され,陸上植物に共通な遺伝子の多くを保持ながらも,遺伝的な冗長性が低いという特徴が明らかにされている.アグロバクテリアを用いた簡便かつ高効率な核ゲノムへの形質転換法が開発された.その後,相同組換えにより遺伝子ターゲティングやCRISPR/Cas9によるゲノム編集も可能になった.半数体の利点をもつことや進化的な位置づけから新たなモデル植物として注目されている.

関連項目


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Last-modified: 2020-05-12 (火) 04:42:44