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*エネルギー収支[energy budget]
  ある境界を通るエネルギーの出入りをいう.特に,ある領域または境界面に入射する放射エネルギーの収支([[放射収支]])と顕熱,潜熱,貯熱などの熱エネルギーの収支が等しくなるというエネルギー保存則に基づいた概念を熱収支と呼ぶ.たとえば,植物群落上端におけるエネルギー収支の式(熱収支式)は次のように表される.		Rn = λE+H&supsc(+);G+Pここで,Rnは群落上端での短波放射([[日射]])と[[長波放射]]の収支によって決まる放射収支量,λEは蒸発散に使われる潜熱,Hは大気を直接加熱する顕熱,Gは土壌,植物体,および群落内空気への貯熱,Pは光合成に使われるエネルギーである. 1950年代以降,森林,草原,水面,雪氷面などの様々な場所における熱収支の理論的研究や観測が盛んに行われ,直接測定の難しい群落レベルでの顕熱や蒸発散量を推定する手段として熱収支式を利用する方法(熱収支法,ボーエン比法)が発達してきた.&br; 熱収支法では,光合成に使われるエネルギーは他の項に比べて著しく小さいと考えてふつう無視する.次に,放射収支量から貯熱量を引いた量(有効放射エネルギー)を放射収支計や熱流板などの測器を用いてできるだけ正確に測定する.最後に,有効放射エネルギーが顕熱と潜熱にどのような割合で分配されているかを求める.たとえば,ボーエン比法では群落上の気温と湿度を2高度で測定し,それぞれの傾度からボーエン比(潜熱に対する顕熱の比)を算出して顕熱と潜熱を求める.ボーエン比は,群落の温度環境や水分環境(気孔開度や土壌水分量)に依存して時々刻々変化する量である.この他,[[渦相関法]]で顕熱を測定して潜熱を残差として求める方法や,蒸発散量をライシメータにより直接測定して顕熱を残差とする方法などもある.さらに,熱収支法を応用して群落上での二酸化炭素輸送量を測定する方法もある.この方法では群落上で気温,湿度,二酸化炭素濃度をそれぞれ2高度で測定し,ボーエン比法により顕熱と潜熱を求めて2高度間の拡散係数を算出する.次に顕熱または水蒸気の乱流拡散係数と二酸化炭素の乱流拡散係数が等しいことを仮定し,二酸化炭素濃度の勾配と拡散係数をかけ合わせることにより二酸化炭素輸送量を求める.&br; 熱収支の考え方は葉面温度を知るためにも重要である.葉面温度は入力放射や[[気孔]]開度の影響を受けるだけでなく,周囲の気温や湿度,風速,*葉面境界層抵抗などの影響を受けて葉面熱収支と同時に決まる量であるからである.そこで近年では,群落レベルでの熱環境,水分環境や光合成速度を総合的かつ数値的に把握することを目的として,光合成速度や気孔開度に関する生物反応のモデルと,群落内部における放射収支や拡散などの物理過程のモデルを組み合わせ,群落内の各部分で熱収支を解くことにより群落内の放射や温度環境をできるだけ現実に近い形で再現し,そのうえで群落全体と大気の間の熱,水蒸気,二酸化炭素交換量を同時に求める数値計算手法が開発されている.

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